金属イオンとの特異的相互作用を利用したDNAの可逆的スプライシング



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 核酸骨格中の互いに離れた2カ所に金属配位基を導入したコンジュゲートは適当な金属イオン共存下、分子内で1:2錯体を形成し、分子全体としてΩ型のコンフォメーションをとる。Ω構造上においては、配位基の外側の2つのシークエンスが直接繋がれた新しいシークエンスを生じており、これは人工的刺激による可逆的なDNA塩基配列の編集(スプラしシング)と見做すことができる(右図)。

 DNA骨格中、互いに約20塩基離れた位置に2つのターピリジンを導入したコンジュゲートterpy2DNAを合成した。terpy2DNA中のterpyの両側の2つのシークエンスに相補的な連続配列との融解実験を行った結果、2価の遷移金属イオン存在下、融解温度が上昇し、急峻な融解曲線を与えた。このことは、期待したとおりterpy2DNAΩ構造をとり、分子内の互いに離れた2つの部位が連結して新たな一続きのシークエンスを構成したことを示唆している。スプリットしたDNAzymeを金属イオンによる塩基配列の編集により再構成することでこれを証明することができた。また、DNAzymeの活性は、過剰のEDTAやループ部分(2つのterpyに挟まれたシークエンス)に相補的なDNAフラグメントにより完全に抑制されることもわかった。



DNA上での発光性希土類錯体形成およびそのアレル解析への応用



核酸末端に金属配位基を導入したコンジュゲートは適当な金属イオン共存下でのみ金属を挟んだ2量体を形成し、対応する結合サイトに協同的に結合することを既に示している。ここではDNA(ターゲット)がテンプレートとなり、2つの配位子を接近させて特定金属イオンを収容する理想的なミクロ環境を作ったと考えられる(右図)。このことは、用いる金属を希土類金属のような発光性のものにするとそのままユニークなDNAプローブとなることを示している。すなわち、テンプレートがあって初めて錯体を形成するので、ターゲットが存在するときにしか光らない(B/F分離不要の)均一溶液で使用できるプローブである。

ターゲット上でこれら金属を2つのDNAコンジュゲートで挟むが、片方のコンジュゲート(キャプチャープローブ)末端には、DTPADiethylenetriaminepentaacetic acid)、EDTAEthylenediaminetetraacetic acid)、IDAIminodiacetic acid)等の金属イオンを捕まえるコンプレキサン型の配位子を、もう片方(アンテナプローブ)にはPhen1,10-Phenanthrolin)、DPPZDipyrido[3,2-a:2’,3’-c]phenazine)、Terpy2,2':6',2''-Terpyridine)等の芳香族性の非常に弱い配位子を導入した。すなわち、全体として、前者が強く金属イオンを捕捉し、ターゲットをテンプレートとして後者の増感剤(アンテナ分子)と隣り合わせに結合したタンデム二本鎖を形成することでターゲットに結合したときのみ希土類金属イオンが発光する条件が整うというしくみである。測定の結果、ターゲット中のミスマッチの有無により発光強度が20倍以上の劇的な変化をすることがわかった。さらに興味深いことに、遺伝子混合物の同時検出(アレルタイピング)も可能であることもわかった。野生型と、変異型に相補的な2種のキャプチャープローブを準備して、それぞれ等量のTb(III)Eu(III)イオンと混合する。これら2種のキャプチャープローブ溶液と共通のアンテナプローブをターゲットと混合して計測した結果、野生型ホモ接合体のサンプルでTb(III)の緑色、変異型ホモでEu(III)の赤色、両者の等量混合物、すなわちヘテロ接合体サンプルでは黄色の発光色を肉眼で観察することができた(右図)。

 用いるのは共通の構造を持つコンジュゲートペア。それぞれのコンジュゲートペアと適当な金属イオンと組み合わせて混ぜるだけで、任意の配列を異なる色でラベル化することができる。



希土類錯体形成を基礎とするモレキュラービーコンによるATPセンサー





 上記、スプリットタイプの発光性希土類錯体形成をモレキュラービーコン(MB)のシグナルモジュールとして利用することにした。具体的にはMBの両末端にそれぞれEDTAPhenを修飾したMBであるLCMBを合成した。EDTALn 3+ に強く配位するが、Phenの錯生成は非常に弱い。したがって、発光性錯体の生成効率はLCMBの基体となるDNAの構造を変化させるすべての化学的、物理的刺激を検出対象とすることができる。

 シグナルモジュールとしての本系の基本性能はDNAセンサーとしての振る舞いをとおして確認することができた。すなわち、希土類金属錯体の特徴である非常に長い発光寿命を利用して、時間分解測定法により核酸の高感度検出が可能であることを示すことができた。次に、核酸以外の分子をターゲットとすることを想定してDNAアプタマーをインターフェースとして利用することにした。ATPセンサーの動作原理を左図に示す。ATPアプタマー(iATP)をLCMBとハイブリダイズさせるとシグナルがoffになる。この系にターゲットであるATPが添加されると、その濃度に依存して競争的にLCMBからiATPを奪うことになる。この競争反応によりATPを選択的に検出できることを示した。



核酸塩基の特異的錯生成を利用した三本鎖の安定化





 DNA三本鎖形成は配列特異的ラベル化、遺伝子発現制御、DNAの特異的化学修飾、さらにはDNAを基体とする超構造の構築等において非常に重要な認識モチーフの一つである。しかしながら、そのパラレルモチーフにおいてthird strandのシトシンはGC塩基対に結合する際にプロトン化する必要があるので、安定に三本鎖を形成させるためには、溶液を弱酸性に保つ必要がある。本研究では、銀イオンがパラレルモチーフのDNAの熱安定性に及ぼす影響に関して検討した。

 実験化学合成DNAから成る三本鎖の融解実験を行った。融解温度に及ぼす銀イオン添加の効果、またthird strand上のシトシンと当量の銀イオン共存下、および非共存下における融解温度のpH依存性についても検討した。さらに、分子内で折れ曲がり型の三本鎖を形成するDNAを用いて銀イオンとの複合体形成を質量分析により確認した。

 TA.T塩基トリプレットのみから成る三本鎖とその中の一つをCG.C + で置き換えた三本鎖の融解挙動を比較した。いずれの系も低温側から三本鎖-二本鎖、二本鎖-コイルの2段階の融解挙動を示したが、CG.C + を含む配列の三本鎖-二本鎖転移のみが銀イオンにより僅かに高温側にシフトすることがわかった。つぎに、5つのCG.C + を含む三本鎖について、熱安定性に及ぼす銀イオンの効果を観察した。銀イオン添加に伴って三本鎖の融解のみがブロードニングし、銀イオン濃度がシトシンに対して当量に達すると高温領域に新たな融点を与えることがわかった。約30℃の著しい安定化であった。また、当量の銀イオン存在下における融点はpHの影響をほとんど受けないことがわかった。これらのことは、CG.C + トリプレット内、third strandのシトシンのN3プロトンが銀イオンによって置換されたCG.CAg + が生じて三本鎖を安定化させている可能性を示唆している(図)。さらに、3つのCG.C + トリプレットを含む分子内三本鎖を形成するDNAに対して銀イオンを添加し、MS解析を行った。全てのピークが銀イオン付加体に基づくものであり、銀イオンを123つ含む複合体に相当する明確な3種のピークを観察することができた。長さ、それぞれの塩基含量を同じくするスクランブル配列について同条件下、MS解析を行ったが明確な銀イオン付加体を検出することはできなかった。

 従来、安定な三本鎖を得るために、DNA骨格の改変、非天然の塩基の設計、または三本鎖特異的なリガンドの開発等が行われてきた。銀イオンを添加するだけという極めて単純な手法でも三本鎖を著しく安定化できることがわかった。



繰り返し配列を探索するプローブ





 遺伝子中には非常に多くの繰り返し領域が存在することがわかっており、トリプレットリピート病に代表されるように、その多くは生物学的に重要な意味を持つ。分子間の協同性をより強く意識してプローブを設計すると、このような繰返し配列に選択的に結合する分子をつくることができると考えた。

 [Ru(phen) 2 dppz] 2+ 錯体は二本鎖特異的にインターカレーションし、発光する“light switch”として良く知られた分子である。繰返し配列(ヒトテロメア、d(TTAGGG) n )の1ユニットに相補的なDNA末端にこれを修飾する。このコンジュゲートのひとつがターゲットに結合すると、図に示すように[Ru(phen) 2 dppz] 2+ 錯体部分が二本鎖構造を好むために、隣接するユニットへの第二の結合を誘導するはずである。

 金属錯体部分の光学活性に基づいて、コンジュゲートをΛ、Δ体に分割した。種々の条件下、それぞれのコンジュゲートとd(TTAGGG)、およびd(TTAGGG) 2 との間に形成する二本鎖の融解実験を行い、コンジュゲートのハイブリダイゼーションにおける協同性ωを算出した。その結果、Δ体についてはω = 54Λ体は1.6という結果になった。このことは、最初のΔ体コンジュゲートがターゲットの繰返しユニットの一つに結合すると、その隣のサイトへの結合を平衡定数にして約50倍に促進することを示している。すなわち、Δコンジュゲートはd(TTAGGG) n 配列を探索し、選択的にそこに集合する性質を持つことになる。ωはコンジュゲート末端部分の塩基配列に依存しており、[Ru(phen) 2 dppz] 2+ 錯体のΛ体、Δ体について観測されたωの非対称性は、それぞれの錯体に関して知られている塩基配列特異性によって説明することができた。この結果は、より強い協同性を示す配位子のロジカルな分子設計の指針となる。